余命10年というタイトルと、帯の恋愛小説の文字。正直、苦手なジャンルなのですが、いくつかの偶然と、気になることがあったので読むことにしました。
きっかけ
旅先の本屋さんで購入しました。私は旅行中に文庫本を買う習慣があって、いつものように面白そうな本を物色していたのですが、今回はこれだ!という本がまったく無い。習慣なので、買わずに帰るのはモヤモヤする!とりあえず気になった本を手にとって、最初の数ページを読んで選ぶことにしました。
その中で手に取った本が、この『余命10年』。
余命宣告された恋愛作品が苦手で、最初は渋い顔してたんですが、1ページ目を読むとわりと読みやすい。そしてカバーに書かれてる作者のプロフィール。
私と同じ静岡出身!(^^)応援したい!買おう!・・・と思い、さらに先を読むと、
本作の編集が終わった直後、病状が悪化。刊行を待つことなく、2017年2月逝去。
と書かれてました。
余命10年って小説だよね?作者もそうだったの!?
とにかくこの本が気になり、購入しました。
毎日少しずつ読んで、20日間ぐらいで読み終わりました。文章が読みやすかったし、特に引き込まれるシーンは楽しくページをめくりました。苦手なジャンルだけど、読んでよかったです。食わず嫌いは良くないですね。
以下、ネタバレ有りの感想になります。
感想
この作品のテーマ
私が読み取ったのは、これからも生きていく人との別れです。
20歳の時に礼子さんが同じ病気で亡くなって、その時に礼子さんの夫の悲痛な泣き声を聞いている。その体験があったからこそ、自分は自分の大切な人を作らない、出来た場合も亡くなる前に別れて相手に別の人を見つけてもらう、そう思ったんじゃないかな?
だいたいの余命宣告された恋愛作品は、亡くなるまで恋人と一緒に過ごしている印象があります。作者はこの作品でそうじゃない別れを描きたかったんじゃないのか?と、そういう風に私は感じました。
どういう別れが正しいとは言えませんが、私はこの作品で描かれた別れ方も肯定したいです。
礼子さんの後悔
言えなかった、
- ありがとう
- ごめんね
- 好きです
自分にもあるだろうか?と記憶を巡らせて探してみました。いくつかあったけど、今更言う勇気は無いなぁ。勇気を出して言うことと、言わずにする後悔だったらどっちが大きいかな。
でもこれは茉莉にとって、すごく重要な会話でしたね。
病気の描写
記述がすごくリアルな印象です。障害者年金の話とかも。あっという間に2年経ってしまって、びっくり。
2007年の作品
読み始めると、ちょっと時代が今より前だという事に気づきました。2007年に刊行された本を加筆・修正して文庫化したそうです。
あっという間に25歳
77ページ目(全部で358ページ)で中間地点の25歳。最初の2年も速いと思いましたが、ここも早い。
タケルの話し方
「違うよ、茉莉。」とか「ダメだよ、茉莉。」とか・・・良い!(*´ω`*)これだけでも、モテそうなのが伝わってくる。
和人との恋愛エピソードが楽しすぎた
この辺りは、本当に楽しかったです。読み進めて、2人がどんな関係になっていくのか、どんなことをするのかワクワクしながら読みました。
ちょっと古風というか古典的なエピソードが多い2人なので、こういうのが好きな人はたまらないと思います。私はまさにそうです!たまらん!\(^o^)/
好きになったきっかけがボタンを縫ってくれたとか、最近そんなエピソード聞かないもの。でも良い!そういうの!
名前を彫って、相合傘のエピソードもいいなぁ~。
好きだよって、時には誰かに言って欲しい。
それだけで生きている実感が持てる。女の子からでもいいや。
好きだよ。
なんていい言葉だろう。
それだけで優しくなれる。
わたしも誰かに言おうかな。(P128,129)
この言葉良いですね。自分に対して好意を示してくれるって、本当に幸せなことです。好きとは言わなくても、和人が自分(=茉莉)と一緒に遊ぶ約束が出来ただけで喜んでる姿を見たら、自分(=茉莉)のことが肯定された様で嬉しいですし。
感情や気持ちを表に出すって、大切ですね。あと、
優しくされて調子に乗って、憧れなんて言われて偉そうなことを言ってしまった。(P157)
偉そうなことを言ってしまって、後悔することもありますね・・・。
何度も泣く、茉莉
10年もの間、自分の死について打ちのめされる事が何度もあるって辛い。茉莉のことを強いなと思うことは何度もあるけど、その茉莉でさえ耐えきれなくて泣いてしまう。
最初はまだ10年ある・・・という風に思ったけど、10年間も死と戦わなければいけないって、余命10年という宣告は余命1年より違う意味で辛すぎる。
和人にコスプレを見られる
大喧嘩した後にこのエピソードだから、笑ってしまう。(^^)今度の喧嘩はテンポの良い会話の応酬で楽しい。
スノボに行った話
和人が「どうだった?カッコよかった?」と聞いたのに対して、茉莉が「うん」と素直に返した所が可愛くて(・∀・)ニヤニヤ
沙苗ちゃんとの話
「沙苗ちゃんはどんどん自分で道を切り開いていく人なんだね。すごいな・・・・・・」
「誰かが開いてくれるもんじゃないからね。それだけは年取って痛感したから」(P267)
・・・これはその通りだなぁ。
七夕
和人の『ずっと二人でいられますように』というお願いが辛すぎる。さらに、
「これが俺の一番の願い事」(P271)
って。その一番が出来ない・・・。
自己肯定感の低い彼女に
桔梗や沙苗ちゃんというスーパーウーマンが近くにいるので、比較して自分を下げてしまう茉莉に対して
「俺は茉莉のがいいよ」(P280)
ってハッキリ言ってくれる和人は良いですね。ただそう思ってるから言ってるだけなんだろうけど、パートナーが自分に必要なものをくれる存在って本当に有り難いと思います。
とにかく幸せな2人が見たかった
何か奇跡が起きて病気が完治しました!ってラストにならないかな・・・なって欲しいな。作品として破綻してでも、幸せになった2人が見たいと思いながらページをめくりました。
だから余命宣告された恋愛ものは苦手なんだ。(´;ω;`)ウッ…
和人と別れたこと
これで良かったのかわからないまま、その先のページをめくっていきました。
私だったら絶対別れない。結婚しようという申し出も素直に受け入れる。だって、一緒にいたい気持ちのほうが絶対強いからそれ以外の選択が出来ない。
でも、読み進めていく内に、茉莉の
大切な人を作らないでよかったと。大切な人にこんな顔を見られないでよかった。改めて確信する。あの時の選択は間違っていなかった。(P319)
この考えが正しかった、良かったと思うように考えが変わっていきました。見られたくないし、見せられた相手の気持ちを考えると、それを自分も受け止められない。
でもそうだとしても、やっぱり別れるって決断はすごい。頭でわかってても出来るだろうか?
ただ、感情に流されないで冷静に考える大切さもこの小説から受け取れました。
ラストがどうなるかわからなかった
茉莉が亡くなる所まで書かれるのか?一体どういう所で終わるのだろう?ラストシーンがまったく予想出来なかったです。
最後まで泣かなかったけど
全部読み終えて、しばらくぼんやりしながら小説のことを振り返って、「この小学校の生徒は、『伝説』の最初のカップルが悲恋だったことを知らないんだよなぁ」と思ったら、ボタボタ涙が溢れてきました。
何も知らない無邪気な子どもたちと、あまりにも悲しい茉莉と和人の物語の対比が辛かったんだと思います。
もしかしたら、学校にある言い伝えも元は悲しい物語だったこともあるんじゃないかな、なんて思いを巡らせました。
終わりに
取り留めのない感想になりましたが、単純に恋愛小説として茉莉と和人の2人のエピソードがすごく良かったです。読んでて楽しかった。
そして、その半面余命がある女の子の物語として重く、私の考えの及ばないほどの茉莉の決意や思いからいろいろ考えさせられました。でも、やっぱり辛かった。
私はやっぱり余命宣告された恋愛物語は苦手です。でもこの小説は読んでよかったです。